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リーアムの『ためにならない読書案内』

ここ1年ぐらい読書らしい読書はしていないけど、本好きの母に似て昔から本を読むのは好きだった。

たまに、一番好きな本は何ですか?と聞かれるときがある。

僕が答える本はずっと昔から変わらない。

サマセット・モームの「月と六ペンス」だ。この本はいつまでも僕の心を揺さぶり、そして動かし続ける。

『絵描きになりたいという欲望を捨てきれず40にして安定した仕事、家庭、友人を捨てたストリックランド。世話してくれた友人を裏切ってなおタヒチで絵を描き続け本能のまま生きた彼が名声を得たのは死んだ後だった。。。』

タイトルだけ知っていて内容もろくに知らずに初めてこの本を読んだ20代前半のとき。僕はストリックランドに対して怒りを感じた。

まわりの気持ちも考えずに自分のことだけを考えて勝手に行動して死んだバカ野郎だと。

ほんとに嫌なやつなんだよ。このストリックランドってやつは。

親身になって世話してくれた友人に恩なんて感じてなくて、「頼んでないのにお前が勝手にやっただけだろ。」的に接する態度とか。その友人の妻といい感じになったからって友人だけを家から追い出すとか(しかも友人が所有する家から)。まわりにいて欲しくない、そんなやつなんだよ。

ただ、いろんなことを経験し年を重ねたあと時折この本を読みなおす度に、僕のストリックランドにたいする気持ちは変わっていった。

あるときは今の環境を捨てて新しい天地で自分のしたいことを始めたストリックランドに憧れを抱き。逆に、夢を叶えるために思いきって全てを捨てたことにたいして恐怖を、欲望に堪えることができなかったストリックランドに誰も気づかなかったことに僕は悲しさを感じたこともあった。

はぁ〜。久しぶりに読み直したけど、いまの仕事やめてどっか行きたい!って今回も思ってしまった。

独身だし、自分が心の底からしたいことなんて分からないけど、いまの生活を捨ててストリックランドのように過ごしたいと思った。

でも、そう思うだけでやっぱり今回も終わってしまうのだろう。

そして、また明日からのくだらなく代わり映えのない日々がいつものように口を開けて僕を待っているのだ。

モームも認めている通りストリックランドのモデルは画家のポール・ゴーギャンだ。

彼もまた絵を描くために全てをやめタヒチで一生を過ごしたという。

サマセット・モームはストリックランドにポール・ゴーギャンの夢を見るか?

少なくともストリックランドはそれを見ようとした。

今日も僕はまた暗闇のなかで目を閉じる。ストリックランドになる夢を見るために。