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14-10

14-10

 次の日。授業中の教室で、市川の姿が無い。そのことに気が付いた月宮は、昨日の市川への来客と何か関連があるのではないか、と疑ってしまい、頭から離れなくなった。

 三年生のこの時期、企業の面接などを理由に学校を突然休む生徒は珍しくない。だけど月宮の記憶では、市川は朝のホームルームには参加していた。就職試験に行く人が学校のホームルームだけ参加するとは考えにくい。授業と違って出席も取らない。担任の業務連絡だけ。ますます理解できない。

 去年から市川とはクラスメイトだけど、市川が誰かと話している様子はあまり見たことが無く、クラスの中でも空気の様な存在。頭が良いから試験前に人気が出ることはあるけど、普段は無口。と言うより、授業が終わると直ぐに昼休みは図書室、放課後は部活へ足早に向かってしまうので、話す機会がない、と言った方が正しいかも。いつも試験でクラスの平均点を引き上げるので、クラス対抗で戦力として扱われたり、彼さえ居なければ平均点ボーダーを越えていたのにと疎まれたりしているが、本人は気にしていないかも知れない。

 クラスの女子同士の噂話で、昨日の来客の一人が演劇部の二年生だと分かった。となれば、彼に話を聞くしかないだろう。同じクラスで、演劇部の部長、市川とは演劇部と例のゲーム部が共通の部活仲間。

「南田君、ちょっと良いかな」

 休み時間に席まで行って話し掛ける。南田は席に座ったまま、珍しそうにこちらを見上げる。目が合ったまま、何か反応を待つような沈黙が少し。

「これはこれは副会長。生徒会のお仕事お疲れ様です。我が演劇部に何か用ですかな?」

 クラスでの生徒会役員の扱いはこんな感じ。距離を置かれていると言うか、特別な何かだと勘違いされている。特に月宮は、生徒会の中でも部活動との兼ね合いを担当するので、怒らせたら部費を削られると思っているのか、かなり丁寧な扱いを受ける。実際には、先生が決めたことをそのまま書くだけで、生徒は何も決められないのだけど。

「あのね、市川君のことなんだけど」

「市川? アイツが何か?」

 お前が今更何を気にかけるんだ。みたいな威圧を感じる。

「さっきの授業に出てなかったみたいだから」

「その様だな」

「サボるのは良くないと思うんだ」

「俺は別に構わないと思うぞ。先生が指摘しなかったと言うことは、休むって連絡が予め伝わっているんだろう」

 それは、そうかもしれないけど。

「と言うか、そんなの俺に言わないで本人に言えば良いだろう。副会長さん」

 それが出来たらどれほど苦労しなくて済むか。

「もしかして会長から、アイツに関わるなって言われているのか? あいつらまだ喧嘩しているのか。中間職は大変だねえ」

「勝手に決めないでよ、そんなことないよ」

 否定はしたものの、果たして聞いてくれているのやら。

「あ、あと。この前教室に来た演劇部の女の子なんだけど」

「中村がどうした?」

「市川君とどういう関係?」

「……生徒会もアイツのことが好きだねえ。推薦奪うだけでは飽き足らず、更なる粗探しか?」

「ねえどうなの? 部内恋愛?」

「知らん知らん! 本人に聞きな!」

 南田は派手に声を荒らげ、席を立ち、その場から逃げた。